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ちょっと時代が異なる昔話 

ネタ |

ある雪の日、おじいさんが歩いていました。
おじいさんは笠屋で、商売を終えた帰り、家路についている所でした。
家ではおばあさんが夕餉を作って待っている事でしょう。

「今日はあまり売れなかったなぁ……」

しんしんと降る雪と同じくして、おじいさんも静かな足取りでした。
今日の売り上げが満足いくものではなかったようです。

巷では、骨が何本もある丈夫な笠、ビニールで出来た安価な笠、色モノになると兜のような形をしているものまであるそうな。

おじいさんとおばあさんが作る笠も竹製で丹精込めて作られており、評判はそこそこにいいのですが、やはり新しいものに目移りしてしまうのが人間と言うもの、昔ほど売れなくなっていました。





おじいさんが歩いていると、道に沿ってお地蔵さんが立っていました。
数は五、一様に頭の上に雪を乗せ、心なしか凍えていそうです。

「お地蔵さんも大変だ。ちょうどいい、この笠を供えるとしようかの」
おじいさんは、頭に積もった雪を払い、売れ残った笠をお地蔵さんに被せました。
しかし持っていた笠は四つ、一つ足りません。

「それでは、私の笠を」
そう言うと、おじいさんの頭を笠を最後のお地蔵さんに被せてあげました。
「これでお地蔵さんも寒くないじゃろう」

最後の笠をお地蔵さんに被せ、おじいさんは再び家路へとつきました。





「お疲れ様ですおじいさん。今日も冷えたでしょう。街ではどうでしたか」
家に帰ると、夕餉の支度をちょうど終えたおばあさんが出迎えてくれました。

「あまり喜べるもじゃないのぉ……ちょっと考える必要があるやもしれんな」
「まぁ、それはそれは。ひとまずご飯にしましょう・・・っておじいさん、貴方の笠はどうしたの」
おばあさんの言うとおり、おじいさんの頭は白髪と見紛うばかりに白くなっていました。
それもそのはず、道中のお地蔵さんの為に自分の笠を渡してきてしまっていたからです。

「道の途中のお地蔵さんが寒そうだったのでな、売れ残った笠を被せてきてしまってな。すまんのおばあさんや」

怒られると思ったおじいさんですが、おばあさんは優しい笑顔で
「まぁまぁそれはいいことをしましたね。きっと良い事がありますよ」
と言ってくれました。
「そうか・・・そうじゃな……いつもわしらを見守っているお地蔵さんに、お返しができたのかもしれん」
「ええ、そうですね。さぁさぁ、ご飯にしましょう。ビーフシチューが冷めてしまいますよおじいさん」

その日の夕餉は、身も心も暖かくなりました。





翌朝、といってもまだ日も昇らぬ時刻。おぼろげに明るくなってくる頃。
おじいさんとおばあさんは家の周りの雪片づけをしていました。

「おじいさん、今日は笠は売れますかねぇ」
「わしがしっかりと売ってくるからの。なに、わしらの笠を分かってくれる人はもっといるはずじゃ。まずはわしらが信じるんじゃよ」
「そうですねおじいさん」

昨日の結果は昨日の結果、今日は良い成果を期待して、おじいさんとおばあさんは意気揚々と雪を片付けてました。

ザーッ、ザーッ。

向こうから、何かを引きずる音が聞こえてきます。
ザーッ、ザーッ、ザーッ。

音は次第に大きくなっています。どうやら、こちらへ向かってきているようです。

耳をそばだてていたおばあさんですが、やがて何かに気づきました。
「おじいさんあれを見て下さい」

おばあさんが指を指した方向には、笠をかぶったお地蔵さんが、それも何かを引きずりながら近づいていました。

「おじいさん、あれは貴方が昨日笠を被せてやったお地蔵さんではないですか」
「た、確かにそうじゃ。あれはわしらの笠じゃ」

おじいさんもお地蔵さんの姿を確認しました。
おじいさんが昨日笠をあげたお地蔵さんは五体、こちらに向かってくるお地蔵さんも五体。間違いありません。

お地蔵さんは、おじいさんとおばあさんの前に止まりました。
そして、どこからか語りかけてきます。

『昨日は素敵な笠をありがとうございました。これはほんのお返しです』
そう言うと、お地蔵さんは引きずっていたものをおじいさんとおばあさんの前に差し出しました。

そこには、たくさんの野菜やお米、お酒などが積んでありました。

「これは・・まぁ」
おじいさんもおばあさんも呆気にとられ、開いた口が塞がりません。

『これからもまだまだ寒い日は続きます。お二人もお気をつけて』

そういうと、お地蔵さんは振り返り去っていきました。





「なんじゃったんだろうか、今のは。夢じゃなかろうか」
「いいえおじいさん、あれは確かにお地蔵さんです。昨日のお礼をして下さったのですよ」

落ち着きを取り戻した二人の前には、お地蔵さんが残していった大層な品々が残ったいました。

「いい事はするものですねおじいさん」
「そうじゃな。よし、これで今日も明日も頑張れるというもの。しっかりと働かねばな」
「頑張ってくださいね、おじいさん」

予想もしなかった嬉しい出来事に、二人も晴れやかな気持ちになりました。
降っていた雪も止み、日の光もいっそう眩くなっていました。





「ところでおじいさん」
「なんだいばあさん」

雪かたずけを終え、それぞれの仕事に取りかかろうとした時、おばあさんが問いかけました。

「一人のお地蔵さんだけ、笠が違ったわね」
「それは言ったじゃろう、一つ足りなかったもので、わしの笠をあげたんじゃ」
「それでは、なぜ半透明だったんでしょうか」

五体のうち四体は竹製の笠、そして残りの一体はビニールの笠を被っていました。
ビニールの笠は、街でしか売られていないものです。

「いや……これはその……その……何故か魅かれてしまっての……」

ついさっき、「まずワシらが自分たちの笠を信じてやるんじゃ」と言っていたのはおじいさんです。
もちろん、おばあさんもしっかりと覚えていました。

「おじいさん、今日は頑張って笠を売ってきてくださいね……」
おばあさんは、いつもと違う優しい笑顔をしていました。そして静かに家の中へと入っていったのです。

おじいさんはぼそっと呟きました。

「私も反省せねば……笠があったら雪は守れるが、おばあさんの雷からは守れないからのぉ」









『笠地蔵』完
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